2018-05-24

【秘訣】杉外壁のメリット・デメリット「メンテ・目地/腐朽・クギ浮き」


ゆうです^^

杉板外壁のメリット・デメリットをまとめたいと思います。

自然素材である杉板は時間と共に変化します。

その変化をどう捉えるか。弱点にどう対処しておくか。

設計者は経験や知識が必要ですし、
建て主様はデメリットを理解した上で判断することが求められます。




僕は、風合いやコストメリットから杉板外壁をお勧めしています。

【秘訣】「おすすめ外壁は板張り。」35年間のメンテ・費用を考える。

杉板外壁の良い点は大きくは、


・風合いが良いこと。

・経年変化を楽しめること。

・コストパフォーマンスが高いこと。


ですね。これらは以前からお伝えしていました。

※良い点と感じるかどうかは「好み」によります。

新築時の杉板外壁の様子。暖かく柔らかい表情。
『山取り樹木の庭と杉板の家』完成

経年変化で綺麗なシルバーグレーになった杉板外壁。
(無塗装。築2年半。南面)
【お客様の家】築2年半の杉板外壁の経年変化〈T様邸〉





今回はさらに細かい良い点をお伝えします^^


・造作がしやすいこと。

壁埋め込み型の造作ポスト。

木は大工さんが簡単に加工できる。
この「簡単に加工できる」ということは(見落としがちだが)メンテナンスを考える上でとても大きなメリットとなる。




同様に、

・部分的な張替えがしやすいこと。

万が一、外壁を一部張り替えなければならない場合、
板であれば簡単に張り替えることが出来る。
(クギを抜き、板を外し、新しい板を打つ。)

これが他の外壁だった場合、とても大変。(コスト大)





・なくならない素材であること。

上記のように外壁を張り替えなければならないとき、
外壁が工業製品の場合、
「廃番」になっているということが多々ある。

外壁材のデザインの移り変わりは激しい。
(特に窯業系サイディング)

自分の家の外壁が廃番になっている場合、
全面新しいものに張り替えるか、パッチワークになる可能性がある。

木は何千年も昔から不変の材料。
これは実はとても大きなメリット。




・目地が目立たないこと。

前提として伝えたいのが「木造住宅は動く」ということ。

柱の乾燥や在来軸組工法(ピン工法)の特性上、完成してからも軽微に動く。
(体感できないレベルで。)

そのため外壁に目地(動きを吸収するための隙間や弾性体)」が必要になる。
(それがないと動きに追随できずヒビ割れが起きる。)

実家の外壁(窯業系サイディング)の目地。
再塗装してからまだ10年経っていないのでそこまで目立たないが、
経年とともに汚れが付き目立ってくる。

目地が目立つと「張り合わせた感」が出てしまい少し格好悪い。
(住宅街をドライブすればそういう家がたくさん?)

杉板外壁は言わば「目地だらけ」。
これだと逆に目地が目立ちづらい。(意識されない。)

板の枚数だけ目地がある。
当たり前で自然なことのため気にならない。





・風景をつなげられること。

これはまだ少数派の価値観だと思うが、

「風景(歴史)を未来へつなぐ」

ことはその地域の風景を守ることにつながり、
家の価値を高めることにつながると考えている。
(というか、そういう社会を作りたい。)


世界を旅していた時、
フィレンツェの例えを出すまでもなく、昔からある家々の街並みはとても魅力的でした。

「住んでいる人の美意識」を感じました。

そして、僕は帰国して地元(柏崎の西山町)に戻った時、
それらの国々と同じような感動を味わいました。


杉板張りと瓦屋根の家々。


これぞ世界に誇れる日本の原風景だと。

これは大切な日本の価値、財産なんだと。

『外を知ることは内を知ること。』ということも強く感じました。


あるTV番組で、日本に来られた欧州人の大工さんが日本の窯業系サイディングの家を見て「日本の外壁はフェイク(偽物の材)で作られている。」と言っていたのが忘れられません。


日本人はここ数十年、経済発展を追いかける中で「合理性」に傾き過ぎたのかもしれません。

「本物の材は、施工が大変だし経年変化するからクレームがきやすい。」

「似た材を作って、安く楽でノークレームにしよう。」

今まではそれで良かったのかもしれません。

しかし今、少し考え直しても良い時代になってきているのではないかと感じています。


組石造のパリの田舎の家々(2012.8)。






また長くなってきてしまいました(^^;)

続いて、杉板外壁の悪い点(弱点)を。

(良い点より悪い点を知るほうが重要ですね!)




木の最大の弱点、それは


・腐ること!

我が家の車庫の隅。
【秘訣】板外壁の経年変化。「雨の跳ねを考慮する」


腐れば、木はなくなります。それは避けなければなりません。

「腐る=菌が木を分解する」ということ。

菌(腐朽菌)が木を分解するにはいくつかの条件が必要です。

「水分」「快適な温度」「酸素」「栄養」

の4つがそろったときに菌は木材を腐らせます。

温度・酸素・栄養は制御しがたいので、
木を腐らせないためには「水分」を制御します。


具体的には、

・水はけを良くする、水がかりを減らす。
 →木の表面を雨が流れやすくする張り方をする。
 →地面から板外壁を離すことで雨の跳ね返りを減らす。など

・通風を取り、乾燥させる。
 →外壁通気工法の採用。凸凹を減らし湿気の滞留を防ぐ。など。

(他には・腐りに強い樹種を選ぶ・防腐剤の塗布、などもある。
 長くなるので詳しくはまたいつか。)


対策さえきちんとすれば、
腐ることに対しては限りなくリスクを下げることが出来ます。





・カビが生える。

黒い部分は表面に生えたカビ(築5年、北東面)。
東面は雨がかりが少なく、カビが目立ちやすい。

築2年~10年くらいまではまだらに汚れ(カビ)が付いてくる。
(その後、シルバーグレーに落ち着いていく)




まずお伝えするのは、カビと腐朽菌は別物です。

腐朽菌は木を腐らせる悪いヤツですが、カビは悪さはしません。

カビの問題は美観上の問題です。

完全にシルバーグレーになるまでには長い年月がかかります。
(日や雨の当たり方などでケースバイケース)
(目安としては、西面:4年~、南面北面:6年~、東面:10年~。※超概算)

シルバーグレーになりきるまでの過渡期は
気にならない人は気になりませんが、
気になる人は気になると思います。

(僕は、カビの出始めに少し気にして3日後には気にならなくなるタイプ。)

これは個人の好みの問題ですね。

気になればデメリット、気にならなければデメリットではなくなります。

綺麗にシルバーグレー化した海カフェドナさんの外壁(築35年以上経過)。





・ヒビが入ることがある。


木なので、経年変化でヒビが入ることがあります。

大きなヒビでなければ特に大きな問題はありません。
(板の奥に施工する防水紙で防水を守っているため)

築35年超の杉板外壁。
割れが起きているのは赤丸部分のみのため、美観上も大きな問題ではないかと考える。

(この程度でもヒビが気になる方には杉板外壁はお勧め出来ない。)






・反りによるクギ浮きが起きることがある。

無垢の杉板はどんなに乾燥させても反り(そり)が起きます。
反り自体は特に問題はありません。

そして杉板は乾燥して縮みます。
縮むとクギの周囲が「すき」ます。
(隙間が出来るということ)


「大きな反り+すき」の影響で一部まれにクギが浮いてくることがあります。

クギが1本抜けても外壁が落ちることはありませんが、
なんとなく気になるかもしれません。

そんなときは、再度クギを打てば補修完了です。
(低い位置なら自分で。高い位置なら大工さんに頼んで)

また、あえて「錆びるクギ」を選ぶこともクギの抜け対策になります。
(鉄クギ、電気亜鉛メッキクギなど)
「錆びる=体積が増える」効果を生かし、クギの抜けを防ぐ方法です。






・節抜けすることがある。

抜けそうな「節」


板の乾燥により節が抜けることがあります。

抜ける節は、
「死節」(枯れた枝から出来る周囲と組織がつながっていない節)や、
「節埋め」(死節を取り、その穴に別の木を埋めて接着剤で留めた節)です。

が、これも美観上の問題です。

節が取れて気になるようであれば、取れた節を接着剤で留めるのもひとつです。

また、節が抜けづらいよう、死節や節埋めした材は極力使用しないという選択肢もあります。
(コストとの兼ね合い)


(ヒビ同様に、節の抜けも気になる方には杉板外壁はお勧め出来ない。)





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以上、杉板外壁のメリット・デメリットでした。

もっと気になるようであれば、一度田舎の杉板外壁地域を歩いてみると新たな発見があるかもしれません^^


杉板外壁は外壁材の主流ではありませんが、メリットや魅力がとても大きい材料です。
(主流は窯業系サイディングや金属系)

弱点の対策をした上で、軽度のヒビなどは許容できる心持ちがあれば、
杉板はとてもお勧めの外壁材ですよ♪


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村松 悠一(ゆう)
エスネルデザイン代表(設計士)

前職での設計格言シリーズ。
:「日常体験の蓄積が最も大切。」

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